5CB 液晶の秩序化における静 電相互作用の影響. 野澤拓磨, 高橋和義, 成見哲, & 泰岡顕治 2013.
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1. 緒言 液晶の豊かなバルクの性質は,特異な分子構造に由来す ると考えられており,分子レベルでの解析が注目されてい る.本研究においては,ディスプレイにも応用されている 液晶分子である 4-pentil-4’-cyanobiphenyl (5CB)ついて,分 子動力学法(MD)を用いた計算を行った. MD において粒子が受ける力は,分子間相互作用と静電 相互作用によって与えられる.Onsager の剛体斥力モデル(1) が表すように,棒状液晶分子が液晶状態を示す最大の要因 は分子形状の異方性,すなわち分子間相互作用の異方性で ある.一方でシアノ基を持つ 5CB のように極性を持つ液晶 分子においては,静電相互作用は分子の凝縮の仕方に強い 影響を与える. 静電相互作用のポテンシャルは収束が遅く計算コストが 大きいため,現在までに効率的に計算を行う様々な計算方 法が開発されてきた.しかしながら,本研究で扱うような バルクの液晶分子系において,静電相互作用の計算方法が 系の秩序化に与える影響を検討した例はほとんど存在しな い.そこで本研究においては,静電相互作用の計算方法が バルク 5CB 分子系の秩序化に与える影響について調べた. 2. 計算方法 バルク 5CB 分子の MD を行い,5CB 分子が秩序化する様 子を観察した.分子モデルとして United-Atom モデル, OPLS 力場を用いた.5CB 分子を構成する原子間の距離は RA TTLE 法を用いて拘束し,系には 512 分子を 3 次元周期 境界条件で配置した.結合角・二面角に関しては,それぞ れに結合角ポテンシャル・二面角ポテンシャルを与えてや ることで拘束した.粒子数,温度,圧力を一定の条件下で. 圧力を 0.1013 MPa に固定し,280 K から 300 K の範囲で温 度条件を変えて計算を行った.分子間相互作用には Lennard-Jones (LJ)ポテンシャルを適用し,カットオフ法を 用いた.静電相互作用の計算には Particle Mesh Ewald (PME) 法(2),Isotropic Periodic Sum (IPS)法(3)を用いて結果の比較を 行った.PME の実空間計算と IPS の計算は GPU(Graphic Processing Unit)を用いて計算を行った. 2.1 PME 法 PME法は,周期境界条件下における長距離力を短距離で 収束する項と収束の遅い項に分けて計算する.このように 分けることで,収束の遅い関数はフーリエ級数展開し波数 空間上で解くことができる.PME 法はこの波数空間の計算 に高速フーリエ展開を用いて計算することにより,高速に長距離力を計算することができる. 2.2 IPS 法 IPS 法はカットオフ半径内の電荷配置を繰り返し単位と した周期的な構造を仮定しポテンシャルを決定する手法で ある.IPS 法を用いることで,PME 法とは異なった形で周 期的な電荷の構造を計算することができる.IPS 法は Wu と Brooks により IPSn と IPSp の 2 種類の方法が開発されて いるが,本研究において実装した計算は IPSn 法である. 2.3 オーダーパラメータ(4) 分子配向秩序度を表す二次のオーダーパラメータ P2 は, 次式のオーダーパラメータテンソル Q の正の最大固有値か ら求められる. オーダーパラメータは分子が完全に配向した状態であれば 1 であるが,完全に無秩序な場合では 0 である.5CB のよ うなネマチック液晶相であればオーダーパラメータは 0.6 程度になる. 3.結果 3.1 バルクの液晶分子が秩序化する様子 各温度について系のオーダーパラメータを求めることで, バルク 5CB の分子系が秩序化する様子を観察した.280 K, 290 K において,いずれに計算方法の場合でもバルクの液 晶分子が秩序化する様子が観察できた.280 K において秩 序化過程はほぼ同様であったが,290 K では秩序化過程に 違いが生じた. 3.2 平均二乗変位 280 K,290 K においての MSD を求めた.PME 法を用い た計算では,280 Kから290 Kの間でIPS法を用いた系に 比べて分子の拡散の様子が大きく変化することが分かった. 3.3 スナップショット 280 K,290 K の系でシミュレーション時間 120 ns 経過後 のスナップショットを回転楕円体に置き換えた(Fig3.5, Fig3.6).楕円のヘッドについている球体は 5CB 分子のシア ノ基を表している.280 K において PME 法を用いた系では IPS 法を用いた計算よりも秩序化が進んでおり,層構造が 現れている.290 Kにおいてはどちらもネマチックと思わ れる相が現れている. 4. 結論 PME 法,IPS 法を用いたバルク液晶系の MD を行った. 得られた結果から静電相互の計算方法によって,秩序化過 程と構造が変わることがわかった.また,PME 法を用いた 計算では 280 K から 290 K の間で分子の拡散の様子が大き く変化することがわかった.これは 280 K から 290 K の間 で構造が変化したためであると考えられる.
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